草野華余子 フルアルバム『Life is like a rolling stone』の全曲を語り尽くす 「これが遺作になってもいいと思う」

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草野華余子 (c)撮影:岩間辰徳
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2020年に大ヒットを記録したLiSAの「紅蓮華」を手掛けたことで一気に知名度が上がり、メインストリームに駆け上がった作曲家・草野華余子。

そんな彼女は自身もシンガーソングライターであり、1月27日にフルアルバム『Life is like a rolling stone』が発売される。もちろん聞き手は以前草野と同じ事務所「ultraCeep(ウルトラシープ)」に所属していたSPICEアニメ・ゲーム編集長・加東岳史。世間の注目を集める作曲家であり、シンガーソングライターでもある草野華余子が改めて目指すべきところを訊いてきた。


■80年代後半から90年代前半の音楽というものに恋焦がれている

――改めてなんですが「紅蓮華」が大ヒットしました。生活の変化はもちろんあったと思うのですが。

「紅蓮華」がきっかけになったかどうかは分からないんですけど、お仕事の依頼を沢山いただくようになったり、事務所(CAT entertainment)に所属が決まったのも、一昨年(2019年)の年末ぐらいなんですけど、ずっと一人で活動してきて、やっと入りたいって思う事務所に巡り会えたっていうのが、大きな出来事だったかなと思います。

――やはり今猛烈に忙しいのでは?

異様に忙しくなりましたね。「普通のアーティストとしての活動×1」ぐらいと、「作家としての活動×1.5」ぐらい。月に10曲(を作る)という月も多かったりで、2.5人分は働いてると思います(笑)。

――そんな忙しいスケジュール感の中でシンガーソングライターとしてフルアルバムをよく作れたなと、率直な意見なのですが。

いや、本当に泣いて逃げ出そうかと思うくらい辛かったです(笑)。

――今回のアルバムには、岸田教団&THE明星ロケッツの岸田さんが、かなり関わっていますよね。

岸田さんはサウンドプロデューサー的な役割を担ってくれました。私は割とサウンドに対して、こうしたいっていうのが明確にある方なんですけど、それを具体的に音にしてくれるというか。編曲もメロディラインの流れも理解した上で、サウンドメイキングできるクリエイター気質なエンジニアさんをずっと探してたので、いい出会いだったなと思います。

――岸田さんがサウンドプロデュースに入ったことで具体的に何か変わった部分というのは?

サウンドと演奏の品質保持ですね。あと楽器のチョイスがうまい。ドラムの録りから全部エンジニアリングをやってくれたんですけど、この曲はあえてチープな音作りをしようとか、楽曲の歌詞とかメロディからメッセージ性をキャッチして、それをサウンドに反映してくれるんです。彼も自分のプロジェクトを持ちながら、作詞も作曲もしながらエンジニアリングもやっているというところでのシンパシーとか、理解度の高さが、かなり今回のアルバムには効いてるなと思います。

――岸田さんって機材&音オタクじゃないですか、そういう部分がすごく活きていると。

そうですね。影響されてマイクと、ヴィンテージのアコギとエレキ3本買いました。悪い影響!(笑)

――それでは1曲目から話を伺っていきたいんですが、「それでも、まだ」の最初の印象としては、「これを1曲目にもってくるんだ!」っていうのがあったんですけど。

あはは! そう、フィナーレみたいな楽曲ですよね。

――どちらかというと、アルバムの後半に入っていそうな印象の曲で。そんな曲をオープニングにしたのは何か理由があった?

今回のアルバムは絶対に歌で始まる曲で幕を開けたかったんです。テーマが「純J-POP」っていうことで。今J-POPって言われている音楽って、結構多様化してきてると思うんです。

――そうですよね。

私はみんなが海外のサウンドに憧れながら、日本の音楽とは何か、を考え始めた80年代後半から90年代前半の音楽というものに恋焦がれているので、それをテーマにした曲を作りたいというのが明確にあったんです。なので何故この曲が「それでも、まだ」ってタイトルになったかというと、令和になって、サブスクリプションで配信されてて、作家もやってて、それでもまだ私はこのJ-POPを歌いたいっていう意思表示の1曲なんです。このアルバムのコンセプトのすべてを担っている楽曲なんですよね、だから1曲目。

――なるほど、あと気になったのは1曲目のサビで、「めげないわたしで居たい」っていう言葉を使うという(笑)。

そう!一行目で「何も救えない音楽」って言っちゃってるからね!(笑)

――なんか、前の華余子って、こんなに達観してなかったな、って思ったんですよね。これは作家として仕事をこなしてきたからなのかな、って。

うん、今の私の強みは絶対に音楽を辞めないという気持ち。どれだけ苦しくなっても、絶対に歩みを止めないと思ってるから「そう簡単にはめげないわたしで居たい」って言葉が出てきたのかなって思いますね。

――歌詞だけ読むとすごくウェットなんだけど、メロが入るとそんなにウェットさを感じないのは、それこそ岸田さんの影響だったりするのかなと。

そうですね。(堀江)晶太やみっちゃん(岸田教団&THE明星ロケッツのドラムス)の演奏力の強さだったりね。

――そして2曲目の「Trigger」はFPSゲームモチーフなんですよね。

そうですね。2019年の秋はFPSの実況とか、動画観まくったり、自分もゲームしてる時期だったんで、テーマをシューティングゲーム系にしようみたいなのは明確にありましたね。

――「スナイパー」とか「リロード」というワードもありますし。これすごく岸田さんらしいアレンジだなと思いました。

これは、メインのリフのフレーズ以外は、割と岸田さんにお任せしましたね。岸田さんと曲を作る時って、ドラムのフレーズは岸田さんが作ってくれて、ベースラインは私が全部作るんです。だけどこの「Trigger」はかなり岸田さんの力をお借りしようと思って、丸投げに近い形で作りました。

――全体的に、岸田さんがサウンドプロデュースで入ると、ちょっとタイト目なサウンドになりますよね。

ソリッドさだったり、シンガーソングライター然としない尖り方ね。自分のロックバンドもずっとやってきた人間としての一面を見せたいって思いがあったので、こういう布陣になりました。

――メロもすごく面白いですよね。すごく草野華余子っぽいし、フックがある1曲。

楽曲提供の時に、「息継ぎがない、音飛びがすごい、難しい」って言われ続けてきてるので。じゃあ最高に息継ぎがなくて、一番音飛びがする、一番難しい曲を作って歌おうっていうのは裏テーマとしてありましたね(笑)。

――これ、自分で歌ってみてどうなんですか?

息継ぎ無いです(笑)。こういうシンガーソングライターとしてのインタビューで言うのはあれですけど、作家としての自分の偏差値に、シンガーの私はまだついていけてないなと思いますね。

――そこはちょっと、レベル差が出た?

出たと言うか、そもそもあったかな。岸田さんにも言われたんですけど、「こんだけ日本中で聴かれる曲を書けるし、自分である程度編曲までできるにも関わらず、売れてこなかったのは、お前の歌が原因や」って(笑)。レコーディング中に言うなし!腹立つ!って(笑)。

――岸田さんバッサリですね(笑)。でも確かに歌がすごく良くなった気がします。

ありがとうございます!(笑)このアルバム、結構歌うの難しいんですよ。

――J-POPって突き詰めると、歌うの難しい曲って多い気するんですよね。

そうなんです。J-POPって、メロディと歌詞が大事だから、本当にシンガーの表現力に依存してるというか。ライターとしてある程度、自分のポリシーや手腕が確立された部分があるので、じゃあこれをどう料理するか?っていうのは今回本当に難しかったですね。

――日本人って、基本的に詞先で音楽を聴くじゃないですか。CDを買って、まず歌詞カードを見る、みたいな。でも欧米の方って、言葉の意味よりもメロ重視。そこにはまる言葉のリズムとか、語感の気持ち良さを重視したりする。草野華余子として今、どっちを大事にしたいというのはある?

ワガママ言うなら、どっちもですね。とにかく、目で見て文章として一度感動できて、耳ざわりとしても良いもの。そもそも私はメロディやリズムの方を優先する人間だったんですけど、やっぱり日本でJ-POPを作ってるという意識をしっかり持ってからは、1行たりとも手を抜かない。意味の無い1行を作らない、っていう気持ちで曲に向き合ってますね。

撮影:岩間辰徳

■ひとつの物事に対して違う考え方を持っている人と、どうやって生きていくかっていうのは今の私のテーマのひとつ

――なるほど。では3曲目、「Life is like a rolling stone」。まさにタイトル曲ですね。これはベースにUNISON SQUARE GARDENの田淵(智也)さんが入ってるということです。

田淵さんとは、LiSAさんへの楽曲提供で出会わせていただいてから、色々なライヴに招待してもらったりだとか、彼の主催している「アニソン派!」という、作家が集まるイベントだったりだとかに登壇させてもらったり。田淵さんってとにかくベースラインがめちゃくちゃ良いんです。この曲は表題曲になるのが分かっていたので、どうしても裏メロ的なベースラインを、自分以外で、私よりもキャッチーなラインを作れる人にお願いしたいというのがあって。田淵さんに全部付けていただくという形でのセッションをお願いしました。

――ここにベース付けてください、と。

そうですそうです。メロディと、歌詞の内容があります、これが表題になります。こういう存在の曲にしたいと思っています、という形でお願いしたら、かなり歌メロに絡んでくる感じにしてくれて。2番のAメロ裏とか、ベースを聴いていただきたいんですけど、そうきたか!っていう攻め方だったり。すごく感動しました。

――ここまでの3つは、全然色が違うと言うか。思ったよりしっとりめの、ちょっとキャッチーなJ-POPで始まって、攻撃的な曲がきて、表題曲は明るさを感じる曲になっています。

この曲で書かれていることが2020年8~9月ぐらいの私の人生のテーマですね。このアルバムを作っている間に色んなことがあって、今全くもってこの「Life is like a rolling stone」と同じ気持ちかと訊かれたら、そうではないんですけど、この1歩が必要だったな、って、今思います。

―今はさらに心境の変化がある?

そうですね、私は自分を取り巻く世界に価値があると信じてるんですけど、「こんなのくだらない世界だ」って言ってる人もいる。ひとつの物事に対して違う考え方を持っている人と、どうやって生きていくかっていうのは今の私のテーマのひとつなんです。生き方の違う人をどうやって許容していこうか、みたいなことを書いた曲ですね。

――なんかアルバム表題曲を、こういう気持ちで書きましたけど、今の心境はちょっと違うんです、っていうのは華余子っぽいなあと(笑)。

あはは(笑)。まあ、人の気持ちは日々移り変わっていくから。でも、それを許すアルバムにしたいなと思ってますね。

――そして4曲目の「A.I.N(オール・アイ・ニード)」ボカロ楽曲のような感じで。

そうですね。この曲だけ、ちょっと古い曲ですね。2017~2018年に原型は出来ていました。

――これは、ギターに感覚ピエロ(日本の4人組ロックバンド)の秋月(琢登)さんが入ってます。ライヴをかなり意識した楽曲なのかなって思ったんですが。

その通りです。言い当てられるからヤダな(笑)。今回、J-POPをテーマにしたから、かなり「聴かせる曲」が増えてしまったので、1曲ぐらいみんなでブチ上がれる曲が欲しいなって。この曲にかなり責任を押し付けてますね(笑)。

――責任を押し付ける(笑)。

これ、歌詞に「酒と泪と男と女」とか、「男と女のラブゲーム」からインスパイアされてる部分が多いんです。スナックでかかってて好きだった曲、みたいな(笑)。

――はははははは!

「ワインレッドの心」もあるな(笑)。遊び心を沢山詰め込んだ一曲ですね。

――このタイミングで、「男と女のラブゲーム」っていうのが(笑)。

結構実話を並べてるから!酷いなと思いますよ、実際(笑)。

――僕は、華余子から「昨日、飲んでたけど全部吐いて何も覚えてない」ってLINEをもらった記憶がありますね。

そうそう!そういうのをそのまんま書いちゃお!みたいな(笑)。

――なんかhideさんの「DOD(Dring or Die)」的ですね。

そうですそうです(笑)。hideさんの「限界破裂」とか、「Beauty & Stupid」にはかなり影響を受けているので。今回のアルバムは、全曲、自分がルーツにしてきたものが投影されているんで、そういう部分を感じ取ってもらえたら凄く嬉しいですね。

――そして、5曲目が「Wi-Fi feat. 宮地 慧(memento森)&eba(cadode)」。何かなんにも制約がなければ、今華余子はこういう曲を作りたいのかな、と思いました。

これは何かテーマを設けて作ろうと思ったんじゃなくて、コロナ禍で、ファンのみんなと会えないという気持ちを、それでも繋ぎたい、繋がっていたいという願いをWi-Fiにのせて届けようと思って書いたんです。確かに素の自分かもしれない。

――淡々といく感じが印象的ですよね、なんかちょっと物悲しいようにも感じられて。

一番ナチュラルな自分のテンション感に近いかもしれない。

――アルバムのイントロダクションとしてすごい良い曲だなと思いますね。

これはギターのループのリフから作ったんです。アコギだけ生なんですけど、それをいい感じでcadodeのebaくんがサンプリングしてくれたので。自分としても新しい、ほぼオール打ち込みなんです。私、打ち込みは初だったんで。

――初なんですか? あんまりそんな印象無いですね。

今までバンドサウンドやアコースティックギターに固執してた部分あるんですよ。今回のアルバムは打ち込み曲が3曲入ってるんですけど、今後はもっと、アコースティックギター弾き語りのシンガーソングライターとはいえ、編曲できるという強みを活かして、色々打ち込みのアレンジをしていきたいなって思ってます。

――基本、作曲って、ギターからが多いんですか?

最近、ビートトラックからもやりますね。ツールが増えたから、それこそドラムの打ち込みは岸田さんが教えてくれたりとか、ebaくんと色々共有して作ったりとか。アコギとピアノで5:5だったんですけど、最近は、アコギ4、ピアノ4、ドラムの打ち込みのみで2、ぐらい。

――作曲のベースになる楽器の比重が変わってきたと。

そうですね。今までフレーズが一筆書きで、メロディが上下する曲が多かったんですけど、後から出てくる「ドミノ倒し feat. koshi(cadode)」とか、フレーズがループする曲が結構増えてきましたね。

――6曲目の「最後のページは開かずに」。すでにシングルとして出てる曲です。改めて聴くと、ドラムがすごいザラついてていいですね。

みっちゃんのドラム、この曲に絶対当てないぐらい、めちゃくちゃ大振りで叩いてくれてたのが、すごい面白かったです(笑)。

――でもそれが、改めて、ちゃんと聴くと、雨っぽい印象になっていると思って。

この曲は完全に私が編曲までやって、全てのフレーズを指定するという形で作りました。一番編曲で手伝ってくれたのは、(堀江)晶太かな。ピアノのうたたね(歌菜)ちゃんと、晶太に力を貸してもらって。クラシックをやってきた人達で作った1曲ですね。

――確かに。

クラシカルなものプラスアルファで、ビートがタイトでしっかりしているもの、というのは凄い作りたかったんです。これって結局、アプローチは洋楽なんですよね。

――その流れで訊きたいのですが、いわゆるJ-POPというか、日本の音楽のコード進行ってあるけど、K-POP、例えばNiziUなんかも、洋楽のコード進行使ったりするじゃないですか。

はいはい。

――SixTONESとかもそういう曲あるし、ああいう曲を日本の女の子たちがかっこいい!良い曲!って言えるのは、日本人も洋楽的センスで曲を聴くようになったのかな、って思うんですけど、人気作家・草野華余子はどう見るのかな、と。

窓口としてK-POPというものがあって、そのヒットでかなり日本にとって身近になったサウンドがあるのは、凄くいいことだなと思いますね。K-POPもイギリスのトラックメーカーを迎えて作ってたりとか。ミックスエンジニア、マスタリングエンジニアに、K-POPはかなりUKとUSの人を使っているんですよ。日本ぐらいじゃないかな、そこまで海外のエンジニアさんに頼んでないの。やっぱり言葉の壁だと思うんですけど。

――その感じでいうと、今回のアルバムは、リズムトラックとかバックトラックはすごく洋楽的アプローチですよね。

そうですね、めちゃくちゃ意識したところです。

――でも、いわゆる歌メロと言うか、メインで聴こえてくるメロはすごい日本的。

そこは歌謡曲!って思ってたから(笑)。

――華余子は、UK的な曲を作ってみたいと思ったりは?

実際、作ろうと思ったら作れるんですけど、私が作る必要がないぐらい、その方向に素晴らしい人は沢山いるから。逆に、私にしか作れないものって、やっぱり老若男女みんなが聴いて、日本の曲だって思える風情があるものだと思うので。だから、そこは意識的に、かっこよくなりすぎないけど、気持ちのいいサウンドっていうものを作りたいですね。

撮影:岩間辰徳

■私が書いた(曲だ)って、誰が聴いても分かるものを書き続けたい

――前のインタビューでも話したんですけど、そもそも「紅蓮華」は僕は歌謡曲だと思っていて。

うん、そうですね。

――(「紅蓮華」は)めちゃくちゃソリッドな歌謡曲っていう印象で、そんな曲を作った華余子は世界のトレンド的なものの方にはあんまり走らないのかな?っていうのは気になったんです。

うーん……実際、たぶん世界のトレンドにはかなり敏感な方だと思ってるんです。取り入れることは容易なんですけど、必要性をあまり感じてないからかもしれない。私が書いた(曲だ)って、誰が聴いても分かるものを書き続けたい。

――自分のストロングポイントで戦うと。

うん、やっぱり、みんなが打てるようなパンチを打ちたくないというのは、明確にありますね。野球ならカーブとかスライダー投げるより、ストレート155kmを投げ続けたい!みたいなところはあります(笑)。

――それでは話を戻してアルバム曲になりますが、「おわりものがたり」は椎名林檎を感じさせる部分もありますね。

この曲はボーカルディレクションにはやぴ~さんが入ってくれてるんです。とにかく椎名林檎さん的じゃなくなるように歌おう、っていうのがテーマでしたね。これは2012年に出した『カリスマティカ』っていうミニアルバムに入っている「ばけものがたり」、2017年に出した『カッコ悪い自分と生きていく』というミニアルバムの「きずものがたり」の、ダメ女シリーズ3部作とファンが呼んでくれてるものの最終章って位置付けですね。

――ダメ女シリーズ(笑)。

草野華余子として作ったアルバムだけど、ちゃんとカヨコ名義でやってた頃の血も引き継いでるよ、という1曲になれば。

――確かにこの曲の主人公はダメな女の人ですね……。

うふふ、ファンのみんなには、こうはなって欲しくないなって思いながら書いてます(笑)。

――それがテクニカルな楽曲で表現されているのは面白いなぁと。

これは、岸田勇気くんが鍵盤とオルガンでかなり手助けしてくれました。岸田くんとはわーすた(5人組女性アイドルグループ)というアイドルのお仕事で、最近一緒によくコンビを組ませてもらってるんですけど、私がやりたい以上のものを返してくれるんです。ジャズを聴いたり、クラシックもやってる人なので、変化球で返してくれるっていうのが凄く今回は楽しかったですね。

――なるほど。では8曲目の「Higher-Ape」ですが、これはもうアニソンですよね。

あはは!そうですね。これは私が東京に来て、6年間書き続けたものの総括というか。

――言い方良くないかもしれませんが、LiSAさんとかに提供するタイプの曲じゃないですか。自分で歌ってみてどうでした?

超ムズイ!あはははは!(笑)

――他人事のように(笑)。

でも超難しいから、どうやって表現を付けようかなって、歌いながら岸田さんと二人でディレクションしたんですけど、今回岸田さんから影響受けた部分は、サウンドのことだけじゃなくて、歌詞のこともあるんですよ。

――歌詞もですか。

私結構、女流文学が好きなんです。でも岸田さんは割とライトノベルだったり、なろう小説の世界観の人だから、「回りくどい」っていうのを凄く言われて。「綺麗だけど、何ひとつ確かなことは言ってない」と。

――回りくどい……か。

今回のアルバムで一番最初に歌詞が上がったのはこの曲なんですけど、その時に、この曲は「自分が選んだ答えを、選んだ後に正解にしていくような生き方をする」ということを書きたい、って言ったんです。そしたら「そのまま書けよ」って言われて。

――うわ、岸田さんっぽい(笑)。

じゃあ書いてみるって言って出来たのが「僕が選んだこの答えを 後悔だらけの日々を 鮮やかな記憶に変えるために 戦う今がある」という歌詞なんです。これがこの曲で言いたいことそのままなんですよ。テクニカルな楽曲の中にストレートな歌詞を乗せるっていうのは、岸田さんのアドバイスですね。

――直球だからこそ、アニソンっぽいのかなっていう気はしました。

個人的ポイントとしては、最近岸田教団&THE明星ロケッツの制作を手伝ってるのであれなんですけど、岸田さんって当て字が凄い面白いんですよ。あれってやっぱり、ライトノベルだったり、ハヤカワ文庫の世界観。私が読んでる女流文学には無いんですよね。

――「生き様」で、「メロディ」って読ませてますからね。

最初は「旋律」って書いて「メロディ」だったんです。これを「『生き様』ってどうだろう」って言いだしたのは岸田さん。ここだけコピーライト岸田ですね(笑)。

――確かに今までの草野華余子の歌詞ではないかも。

岸田さんから「『生き様』を、『メロディ』って読んでいいのはお前だけだから」って言われたのは凄い嬉しかったですね……。

――なんか、いい意味で、このアルバムの中で浮いてるんですよ、この曲。

浮いてる!でも私が聴いてきたJ-POPの中に、おっきな要素としてアニソンがあるから、このアルバムに入れない手は無いなと思ったんです。ジャジーな「おわりものがたり」の後で、バキッと目え覚ますような1曲入れたい気持ちはあったので、この位置になったのもありますね。

――ReoNaちゃんに提供した、「Dancer in the Discord」の歌詞での「五線譜」とか、テーマに対して、印象的なワードをはめ込んでいくっていうのはすごく華余子っぽいんだけど、この曲はもう、私はこうです!って言い切ってますよね。

「Higher-Ape」は「進化する猿人類」。自分の気付きだったり成長だったりを進化と呼ぶ……。こんなおこがましい歌詞を書いていいんだろうかとも思ったけど、自分の人生、進化し続けたいという思いを、「進化」という単語以外で表現出来ないと思って、勇気を出して書きました。

撮影:岩間辰徳

■岸田さんに「お前は今からスティーヴン・タイラーだ!アルマゲドンだ!」って言われた(笑)

――そして、ぐっと抑えた感じで展開されるのが「カランコエ・モノディ feat. ヒグチアイ」。これはヒグチアイさんとの楽曲です。

そうですね。作詞は共作で、夜中うちの家に集まって、二人で書きました。

――どうしてこういう形に?

草野華余子としてファーストアルバムを作る時に、バンド界隈で一番影響を受けたり、苦楽を共にしたのが宮地くんや秋月。アニソン界で色々お仕事させていただく時に、一番コミュニケーションを取っているのが、岸田さんだったりとかっていうことで言うと、シンガーソングライターの世界で生きていく時に、一番苦楽を共にして、心を支えてくれたのが、ヒグチアイだったんですよ。

――なるほど。

彼女も今、メジャーのシーンで頑張って活躍している中で、今だから私たち二人で歌える曲を作ろうとなって。私とヒグチアイが歌うなら何だろう?って話をしたら、「いや、死生観でしょ」って(笑)。

――なるほど。

ヒグチアイは、死というものの存在を常に考えながら生きていているんですよ。私は、生きるということを考え続けた、その先で燃え尽きて死ぬって思っている。真逆の方向から死生観を捉えてるんですね。

――そういう風に聴くと、曲自体の輪郭が結構見えてきますね。

私の明確なポリシーは、「死に場所を探して生きている」なんです。どこで自分が息絶えるかは、自分で決めたい。そう思ってるんですよ。

――思想が『北斗の拳』なんだよなあ……(笑)。

あははははは!そう、めっちゃ言われる!「ラオウかよ!」って(笑)。

――でもなんか、これも「Higher-Ape」とは違う意味で浮いているというか、輪郭がはっきりしないというか。でもお話を聞いて、この感覚はセッション感なのかなって思ったんですが。

そうかも。ヒグチアイと歌うが大前提なので。ヒグチアイが得意な曲を書いたんですよね。自分のアルバムなのに(笑)。レコーディングで福岡の岸田さんのスタジオに行った時に、「お前、このままだとヒグチアイの持ってる死に飲み込まれるぞ」って(笑)。

――岸田さん、そういうこと言いそう(笑)。

「えーっ、どうしたらいいですかー!?」って言ったら「もうここはあれしかない、エアロ・スミスだ!」って言われて。

――……ごめんなさいちょっと意味が(笑)。

ですよね(笑)。「お前は今からスティーヴン・タイラーだ!アルマゲドンだ!」って言われて、ああ、「I Don't Want To Miss A Thing」のことかと(笑)。死に場所を探すんじゃなくて、生きることを歌おう、っていう風にシフトチェンジして、躍動的な歌になったんです。

――ヒグチアイに負けない為には、スティーヴン・タイラーになれって意味分かんないですよね。早口でまくしたててそう。

そうそう。ギャンギャン言うてるから、分かった!って、とりあえずスティーヴン・タイラーのモノマネしたら、「めっちゃ似てる」って言われて(笑)。そのまま歌いました。

――なるほど。そして「ドミノ倒し feat. koshi(cadode)」。これはそれこそ、打ち込み曲ですね。

そうですね。SE系はebaくんが最後に仕上げてくれたんですけど、ベースのトラックもピアノもリフも、プラグインをこれの為に買いましたね。編曲の方に時間を割くようになったの、この曲ぐらいからかな。

――英語の歌詞のリズミカルな部分でリズム感が増しているような感じがします。

うん、これかなり細かい話になりますけど、ハットの裏で入ってるビートが、若干ハネてるんですよね。このコントロールとかは、かなり歌う時に意識したので。結構大変だったなあ。

――言葉の発声でもう1個新たなリズム感が生まれるというか、曲のアレンジとしてはすごく面白いなあと。

休符を歌うことを、このアルバムは意識したんですよね。やっぱり日本人はメロディを歌う時アタマでリズムを取るんですよ、2拍・4拍目がおざなりになって裏拍が聴こえないことがある。必ず裏拍が聴こえる歌を歌おうっていうのは今回のアルバムのテーマというか、歌単体で聴いてもビートが聴こえるテイクにしたかったんです。

――そうだよね、日本人って、基本的に1拍・3拍で手拍子しますもんね、盆踊りとか。

そう。でもそれが悪いっていうわけではなく、それぞれトラックに合うものであることが凄く重要なので。

――でも、その言い方をすると、戻るけど、さっきの「Trigger」も「A.I.N」も、2・4を意識してる感じがしますね。

そうですね。

――逆に言うと、「Higher-Ape」は1・3が強いというか。

あれはかなり歌詞の内容だったり、メロディの強さでアクセントの位置を意識しましたね。

■自分自身のストーリーに名前はいらない、ただそこにあるだけでいい

――で、「Stray Dog Tag」。僕の中でのメモには「闇堕ち華余子」って書かれてるんですけど。

ははははは!これがデフォです!「Stray Dog」っていうのが、野良犬・迷い犬って意味で、「Dog Tag」っていうのが名札。迷っている犬に、果たして名前はあるのか?テーマとしては、人は孤独な時、どうやって生きていくか、っていうことです。「Life is like a rolling stone」と全く逆なんですけど。生まれて死ぬまで、人はひとりだということを書こう、っていう曲ですね。

――一番今の華余子の本音が詰まってそうな気がしたんですよね。

そうですね、その通りだと思います。今、作家として色んな方からオファーをいただいたり、名前を挙げていただくことが増えてから、「華余子さんはこういう人だよね」って沢山言われても、そういう方から与えられた形容詞が一つもしっくりこなかった瞬間があるんですよね。最後の歌詞に「This is my story その名前は “NO NAME”」って記したんですけど、名前なんて、人に呼ばれて付いているものだから。自分自身のストーリーに名前はいらないな、ただそこにあるだけでいいんじゃないかなって思って。

――なるほど、これは華余子が華余子自身のために書いてるなって印象があったので。

今このアルバムで1曲だけどれ歌いたい?って聞かれたら、やっぱ「Stray Dog Tag」ですし、本当にそうかも。

――すごく僕自身も共感する部分多いんですよ、この曲。

加東さんも私と一緒で、色んな顔があるから。こういうインタビュアーとしては話の受け手であり、私の代わりに思いを伝えて下さる人だったりするけど、劇団とかもやってらっしゃるから、自分自身がコンテンツになったり、プロダクツしたものを売らなきゃいけない瞬間とかもあると思うんですよ。

――まあ、そうですよねえ……。

モノを作っていく時って、昨日自分が言ってたことを、今日の自分が全否定しなきゃいけない瞬間とかもあるんですよ。そういうものを分かってもらえる仲間がいるのは、凄い嬉しいですね(笑)。

――今最高にいいものが、明日も最高にいいとは限らないじゃないですか。「お前、言ったことが違うじゃないか!」って言われた時に「違うよ!」って言うのも自分自身だし。

そう。だからさっき「Life is like a rolling stone」を、今100%同じ気持ちかって聞かれたら、そうではないって言ったのはまさにそういうことなんですよ。このアルバムはこれからリリースしますけど、自分の制作としてはもう「1個前の自分」だから。

――ああ、そう言われたらそうですよね。

もう次に何が書けるかワクワクしてるし、自分が最高傑作だと思っていたものを、今日の私はすでに超えていかなきゃいけない。だから、みんなに届くのはきっと最高で最新の草野華余子だけど、その次のことはもう考えて生き続けてる。変わっていくことも許容するって意味では、この「あるがままRide on time」っていう歌詞の最後一行は、本当に私の心の底から出た言葉だなと思っています。

――いや、こんだけ売れてて忙しい作曲家がこれを言うっていうのは面白いですよ。

はははははは!いや、実際、そんな売れたなんておこがましいですよ。ずっと葛藤してるから私、自分がどう生きるべきか。

――でも、流石に変わってくるものもあるんじゃないですか?

いや、人間としての私は1ミリも調子には乗れない、逆に不安になってる。次、ツマンナイって言われたらどうしようっていう重圧とは常に戦ってますよ。

――でも、周りはそうは思ってくれないでしょ「草野さんいい感じのバチッとお願いしますよ」じゃないけど(笑)。

そう、思ってくれない。楽しそうに見えるかもしれないし、まあ実際楽しいけど!

――「売れたんだから一生ラクでしょ!」みたいな。

バカヤロウって!あはははは(笑)。でも、そういうことを言ってる人もいるなっていうのは、耳にも入ってくるし、そう思われてるだろうなとは感じてますよ。一生音楽できていいねとか、もう違うステージに行っちゃったなとか。昔の知り合いとか、ミュージシャン仲間に言われたりするけど、なにひとつ変わってねえよ!変わったのは環境だけだよ!ってめっちゃ思う。確かに環境が人を変えるかもしれないし、自分が変わったことで環境が変わったのかもしれない。ちょっとそこはまだ渦中で模索中かな。

――でもそれこそプレッシャーは増すよね。

買いたい機材は多少買えるようにはなったけど、全く生活は変わってなくて。6年前から家賃も一緒だし、タクシーにはあんまり乗りたくないし。そういう意味では、周りの対応が変わっただけで、むず痒いし、なんかちょっと嫌だな、変な感じだなって思うだけかな(笑)。

――それがヒットするってことかもしれないですよね。みんなは金が入ったからすげえ生活してんだろ?って思うわけですよ(笑)。

キャベツしか食ってねえよ!料理する暇ないから!(笑)

――では最後、「マーメイド・ララバイ」。カヨコ名義で出した『カッコ悪い自分と生きていく』にも収録されていた曲です。改めて聴き直すと、歌がうまくなったな!って。

これははやぴ~さんのお陰でもありますね。ヴォーカルのディレクションで入ってくれたんです。かなりアドバイスをいただきました。「今のトレンドの歌い方はこうだよ」っていうのをディレクションして下さったことによって、ライヴでも一番回数歌ってる「マーメイド・ララバイ」という曲を、改めて俯瞰的に見る事ができましたね。

――セルフリメイクになりますが、どうでした?

すごく恥ずかしげもなく言うと、良い曲書いたな、って思いました(笑)。200%ファンの為に書いた曲だから。これからもちゃんとファンのみんなと約束をし続けたいなと思います。

――この人に届けるというのがちゃんと見えてる曲ですよね。伝わってくるものが増えたというか、情報量が多くなった。それは、人間としての厚みが増えたところなのかなって思ったりしたんですが。

明確にはやぴ~さんのディレクションのお陰もありますね。私これまで書いたメロディや歌詞の内容をちゃんと届けたいと思ってたんですけど……なんていうかな、脚本を書いてそれを自分が演じるとして、脚本家の気持ちで舞台に立ったら、アウトじゃないですか。

――分かります(笑)。こう伝えたいはあるけど、アクターとしての自分とはズレることもありますね。

加東さんはご自身が舞台に立たれている時は、作家とアクターどっちを優先しますか?

――舞台上なら、アクティングしている自分を優先しますね。

そうあるべきなんですよね。今まで私逆だったんですよ。比べたら力が強いのは、アーティストよりライターとしての自分だから、そっちの偏差値に引きずられて、曲のメロディを伝えようとしちゃうんですよね。

――なるほど。

それを今回は一新して、新人アーティストの草野華余子が歌うぐらいの気持ちで「マーメイド・ララバイ」は歌ったんですよ。生まれ変わった「マーメイド・ララバイ」を、このアルバムの最後の1曲にしようっていうのは、録ってる時から思っていたので。

――友達として聴いた時の最初の印象は、「きれいに終わらせやがったな……」っていうのが(笑)。

言い方!(笑)でも、なんか1曲目に帰れるアルバムがいいなと思ってて。「それでも、まだ」に曲としても戻れるのは、すごく気持ちいいかなあと。

■とにかく曲が良いこと、嘘がないこと。これを一番の信念として作ったアルバム

――ということで、ぜんぶ聞きました(笑)。 変な話、今やあの「紅蓮華」の草野華余子さん、って言われるわけじゃない。

ありがたいことですけど、もう100億回ぐらい言っていただきましたね(笑)。

――だから、今までやってきたものとは、注目度が絶対的に違うと思うんです。

そうですね。

――さっき次コケたくないし、コケられないって言ってたけど、今作を出すことにはワクワクと怖さは両方あるんですか?

自分のプロジェクトに関しては、土下座してでも、どんなドサ回りしても、1枚でも多く売るだけだ、って感じですね。

――ちょっと感覚がまた違うんですね。

どっちかと言うと、提供曲での責任感の方が大きくなってきて、ちょっと筆が進まないなっていうことは増えてきたんですけど……。言い方はあれですけど、自分のケツ自分で拭けるじゃないですか。自分の名前で出してるアルバムって、一番の娯楽であり、快楽であり、人生のご褒美なので。

――ご褒美!

もちろん仕事として、事務所に入らせてもらって初めてのCDなので、責任感も持ちつつですけど。事務所の人も、「華余子の好きにやっていいよ!信頼してるから!」と言ってくれるので、じゃあ思いっきりやるから!売れんかったらゴメンな!ぐらいの気持ち(笑)。

――うわあ(笑)。

売れんかったら自分で全部買い取るわ!って(笑)。ちょっとこのご時世なんで難しいかもしれないですけど、手売りでも売りたいぐらいの気持ちなので。作家として作品を評価していただいて、音楽的にはフィードバックできるけど、アーティストとしてはフィードバックできているわけではないので、もう新人アーティストとしてじゃないけど、何でもするからCDを聴いてほしいという気持ちで、貪欲にやっていこうという気概です。

――では改めて、シンガーソングライター草野華余子として、最後に一言コメントいただければと。

とにかく曲が良いこと、嘘がないこと。これを一番の信念として作ったアルバムなので、一人でも多くの方に聴いていただければと思ってます。誰かに自分の音楽が、すごく良い影響を与えるなんて、そんなことは1ミリも思ってなくて、自分が胸を張って、これが遺作になってもいいと思うような1枚ができたので、どこかで耳にしたら、ぜひ足を止めて聴いていただければなと思います。

撮影:岩間辰徳

インタビュー・文:加東岳史 撮影:岩間辰徳



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