【#2】「このマンガがすごい! 2016」ランクイン『かくかくしかじか』東村アキコインタビュー|探偵マンガの原点とは

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このマンガがすごい!WEB

「このマンガがすごい!WEB」×music.jpのスペシャルコラボ企画!「このマンガがすごい!2016」で見事、オンナ編2位にランクインした『東京タラレバ娘』。作者の東村アキコ先生のインタビューを特別掲載します!(全2回)

今回お話をうかがったのは、東村アキコ先生!

昨年、『このマンガがすごい!2016』オンナ編に2作品同時にランクインした東村アキコ先生。前回は、第2位にランクインした『タラレバ娘』をメインにお話をうかがった。「まずは大衆居酒屋へ行け!」という名言も飛びだす、路頭に迷うタラレバ女子必見のインタビューとなったのである!

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そして今回は、ほかの作品についてもお話をうかがった! この人がいなければ今の東村アキコはいなかったと言っても過言ではない宮崎の恩師・日高先生との大切な記憶が綴られる自伝的作品『かくかくしかじか』は、第8回マンガ大賞に続いて、第19回文化庁メディア芸術祭マンガ部門を受賞。
インタビュー後編では名実ともに東村先生の代表作となった『かくかくしかじか』の話を中心に、近作の話に触れていこう。

著者:東村アキコ

宮崎県生まれ。
1999年に「ぶ〜けデラックス増刊」(集英社)にて『フルーツこうもり』でデビュー。2001年には、「Cookie」(集英社)にて初の連載作品となる『きせかえユカちゃん』をスタート以降、『ひまわりっ〜健一レジェンド〜』『ママはテンパリスト』主に泣いてます』『かくかくしかじか』『メロボンだし!』など数多くのヒット作を生み出し、大人気漫画家として活躍。

現在、「Kiss」(講談社)にて『海月姫』『東京タラレバ娘』を連載、「Cocohana」(集英社)で食にまつわる探偵奇譚『美食探偵 明智五郎』、さらに「ヒバナ」(小学館)にて初の歴史マンガ『雪花の虎』を連載中。
『かくかくしかじか』全5巻も絶賛発売中。


公式Twitter @higashimura_a

描いていた頃は「修行」。『かくかくしかじか』執筆を経て、得たものとは?

——『このマンガがすごい!2016』オンナ編にランクインした『かくかくしかじか』は『ママはテンパリスト』に続いて描かれたエッセイ作品でしたよね。

第19回文化庁メディア芸術祭 マンガ部門大賞受賞作『かくかくしかじか』

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【東村】 当時、週刊で『メロポンだし!』をやっていたこともあって、「ページも短いし、エッセイなら楽だな〜」って理由で『かくかくしかじか』を始めたら、こんなことになってしまって。

——ここまでの反響を得たのは先生にとっても、意外だったのですね。

【東村】 本当に意外でした。まさかコミックスが5冊も出るとは夢にも思わなかったし。「2冊くらいかな〜」と思って描きだしたら、いろいろな懺悔の気持ちがあふれてきて、止まらなくなってきて……。毎月、ワーっと吐きだすように描いたら翌月までは考えない。打ちあわせもいっさいしない。ネームすらやらないときもありました。

——ネームをやらないことも!?

【東村】 真っ白な原稿用紙にいきなり下絵を鉛筆で描いて、ペンも入れつつ、みたいな感じ。それくらい、直前まで考えたくなくて。あまりにも昔の自分が寒いから。でも、乗り越えたい気持ちもあって。もうみたいな感じで描いていていましたね。

執筆時を「修行」と称する東村先生。先生との思い出を1つひとつ丁寧に描いていた。

——完結させた時点で、修行期間が終わったってことですか?

【東村】 そうですね。すごく楽になったし、やってよかったと思った。最終回を描ききったとき、心のなかのモヤモヤがサーっと晴れていった感じがして、自由になった。マンガ大賞ももらったし、これでもういいかな、と。あとは好きなものを描いて、それでコケても「『かくしか』の東村です」って言えばいいやって(笑)。描いていた時が苦しかったぶん、みそぎをすませた気分です。

新作は美食家の名探偵が主役!? 新境地での制作は…… 「トリック思い浮かばねー!!(切実)」

——『かくかくしかじか』終了後は、ますますジャンルが多岐にわたっていますよね。

【東村】 ふっきれちゃった。

——「Cocohana」で昨年から連載が始まった『美食探偵 明智五郎』は、王道のミステリーですね。

5月25日に電子書籍で配信開始した『美食探偵 明智五郎』

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【東村】 この作品はトリックを自分で考えるのが衝撃的でした。ブレーンはついていません。まあブレーンといえば、せいぜい『名探偵コナン』を全巻読んでいると豪語するアシスタントがいるくらいです(笑)。

——探偵マンガといえば、『かくかくしかじか』にも話が出てきた東村アキコの原点『探偵ぷっつん物語』が思い出されます!

東村先生の黒歴史!? 小学生時代に生まれた名作『探偵ぷっつん物語』!(ぷ……ぷっつん、って……)

東村 そうですね(笑)。30数年ぶりの探偵モノだ。『ぷっつん』は宮崎の江南小学校時代にマンガクラブで描いていたんですけど、じつはひとつ上の世代に『ONE PIECE』の尾田栄一郎先生がいたってことを、ある日ジャンプの編集さんから聞かされてびっくりしました。「東村先生って江南小学校出身ですか?」って。尾田先生も、3年くらい宮崎に住んでいた時に江南小学校に通っていたそうです。もしかしたら『ぷっつん』は尾田先生の隣で描いていたかもしれない(笑)。

——私は「なにはともあれ一件落着」という、『ぷっつん』の決めゼリフが『美食探偵』のなかに、いつ出てくるのか気にしていたんですよ(笑)。

【東村】 忘れてたわー(笑)。『美食探偵』は一条ゆかり先生の『有閑倶楽部』みたいに1シリーズやって休んで、みたいなスタイルでやっていこうと考えています。そのくらいたいへんなんですよ。現場で怒号が飛び交っていますもん。「トリック考えろ〜!」って。

——ネームを作るときは、トリックありきですよね。

【東村】 いや、まったく考えてないんですよ。とりあえず人が死ぬところから始めて、「なんで死んだのかな?」って、追っていく形ですね。

現場に残された食事から、冷静に謎を解き明かす明智。どんな異変も見逃さない!

——ミステリを美食に絡めようというアイデアはどこから?

【東村】 とりあえず『かくしか』のあと、「すぐに連載を」という話になって、何をやろうか……って話になったときに、担当さんから「東村さん、グルメものをまだやっていないじゃないですか」ってふられたので、「私、単なるグルメマンガは描きたくないんですよ。でもグルメと“何か”なら……たとえば美食探偵みたいな」って軽い気持ちで言ったら、もうそれに決まっていたんですよ。「『美食探偵』いつやります?」って。「え!? ぜんぶ食べ物に毒を入れる話になるけど、いいの?」みたいな(笑)。

——食べ物×殺人って、そんなにバリエーションないですよね。ストーリーやトリックを考えるのが難しそうです。

【東村】 もう、毒入れるしかパターンがないんですよ。しかも調べたら「トリカブト」か「フグ」くらいしかないんです!

——……すぐに行き詰まりそうですね。

【東村】 完全に行き詰っています(笑)。

——主役の五郎にモデルはいるんですか?

【東村】 ベネディクト・カンバーバッチですね。ドラマの『SHERLOC(シャーロック)』にハマって、ファッションとか髪型とかカッコイイなと思って。

シュッとしたスタイル、特徴的な前髪、どんな謎も(美食も)見逃さない、瞳……思わずウットリ

——モチーフは江戸川乱歩ではありませんか?

【東村】 はい、宝塚に『黒蜥蜴』[注1]が演目にあって、それが異常に好きなんですよ。だからパロディも入っています。

明智の天敵・美女マリアの今後の展開にも注目だ。

——『美食探偵』は宝塚が原動力でしたか。

【東村】 ただ、感情面は描けるんだけど、やっぱりトリックが……。トリックを考えてくれる人を募集しようかな。

[注1]『黒蜥蜴』 江戸川乱歩の長編探偵小説。また、作中に登場する女性盗賊の俗称でもある。名探偵・明智小五郎と「美しいもの」を狙う美貌の女賊・黒蜥蜴が対決する冒険物語。舞台の黒蜥蜴役としては、美輪明宏の黒蜥蜴役が有名で、舞台化のみらなず映像化も多数なされている。

歴史ファン大注目『雪花の虎』は、愛息・ごっちゃんの同級生も注目!

——さて一方で、小学館「ヒバナ」で連載中の歴史ロマン、『雪花の虎』なんですが、この作品にはびっくりしました。歴史モノをやるなら、東村さんの場合、三国志かと思っていたので。

【東村】 ただ三国志の知識も『蒼天航路』とコーエーのゲームだけなんですよ。横山光輝版『三国志』も3巻くらいで脱落しているので(笑)。

——では『雪花の虎』の発火点は?

【東村】 かなり前に本屋で『上杉謙信は女だった』というタイトルの表紙を見かけたことがあって、へーって思ったんですよ。歴史にあまり興味がなかったので、買わなかったけど。

——戦国時代に関して、どのくらいの知識があったんですか? やっぱりゲームでしょうか?

【東村】 そうです。『かくかくしかじか』にも登場する当時の彼氏の西村君が、「信長の野望」をやっていて。私、政治とか武将の名前とかは全然わからないけど、陣形には強いんですよ。だから野戦のときだけ参加させられて(笑)。

ゲーム「信長の野望」にはまっていた東村先生。まさか歴史マンガを描くなんて、この頃思っていなかったのでは……!?

——そんな歴史ロマンと縁遠い東村さんが、有名な戦国武将を主人公にするとは。

【東村】 私、さっきの『美食探偵』の時も話題に出しましたけど、宝塚が好きなんですよ。上杉謙信女性説の本を最初に見かけたときに、「これって和製『ベルサイユのばら』じゃん……!」って思ったんです。だから「うまくいけば宝塚の演目になるぞ!」って(笑)。そこが原動力です。

——そんな野望が秘められていたとは。

【東村】 下心がないとマンガなんて描けないですからね。

——本作をとおし、いろいろと調べてみて、上杉謙信のどこが魅力的ですか?

【東村】 いい意味で欲がないところですね。領地を広げるための戦をしていないっていうのは有名な話なんですけど、考え方が女性的で好きなんです。

——上越市にも取材に行かれたそうですね。

【東村】 歴女じゃないから、初めてのことばかりでした。山城って言葉も初めて知って。「天然の要塞なんて、かっこいいな」って。新参者だから素直に見られるんですよ。博物館とかも楽しくて。知らないことだらけだから。

——今はもう、どっぷりと詳しい?

【東村】 16歳の謙信まではくわしいです。でも川中島の戦いとかは全然。虎と一緒に歩んでいるから、資料や小説も、いま描いているところまで読む。そのほうがライブ感が出て、ドキドキするんですよ。

——歴史マニアからのツッコミ対策は万全ですか?

【東村】 下絵段階で専門家に見てもらっているんです。「石灯籠はこの時代にない」って言われたら消すとか。最初は一緒に学者の方が考えてくれるんじゃないかって思っていたんです。でも一切、そういうブレーンはつかなくて。これは『美食探偵』と同じく衝撃を受けましたね。

歴史マニアの間では有名な「上杉謙信は女だった」説。まさに宝塚にうってつけ!? 東村先生の野望が叶う日はくるのか……?
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——現在、4本の連載を抱えていますが、作業のペースはどんな感じなんですか?

【東村】 月の前半に全部やっちゃうことが多いですね。ごっちゃん[注1]の学校の保護者会とか塾の送り迎えとかもあるので、後半は主に育児を。

——お母さんのマンガ、ごっちゃんも読んでいますか?

【東村】 『雪虎』はおもしろいって言ってました。ごっちゃんに歴史オタの友だちがいるんですけど、『雪虎』で初めてリスペクトの視線を向けてきました。それまでは「なんかマンガ描く人らしいね」みたいな感じだったのに、授業参観の時に「雪虎の2巻、いつでるんですか?」って。そんなこと言われたの、初めてですよ(笑)。

——いろんなジャンルの作品を同時に連載するのはたいへんですか?

【東村】 描いていてつらいっていうのはないです。『美食探偵』もトリックを考えるのはシンドイけど、絵を描いている時は楽しいし。最近、ロフトプラスワンで「東村プロ 漫画お笑いライブ」[注2]というイベントをやったんですけど、コントの脚本も書きました。やっぱりいろろなことをやらないと脳が活性化しない。イベントにはいろんな若手芸人に出てもらったんですけど、マンガのネタにもなるし、楽しかったな。

——もしかしたら芸人マンガもいつの日か?

【東村】 おもしろそうですよね(笑)。

——本日はありがとうございました!

東村先生は野望を胸に、これからもマンガを描き続けるのだ!

[注1]ごっちゃん 東村アキコ先生のご子息。本名は「悟空」くん。育児エッセイマンガ『ママはテンパリスト』では彼の成長ぶりと育児のたいへんさが描かれ、その内容が話題となり大ヒット(『このマンガがすごい!2010』第3位ランクイン)。ごっちゃんは『かくかくしかじか』やほか作品にも登場する。
[注2]「東村プロ 漫画お笑いライブ」 2016年4月15日に新宿・ロフトプラスワンで開催されたイベント。テーマは「漫画」×「芸人」。東村先生が初めてコントを書き、さらにコントも披露。様々な「漫画ネタ」をする芸人の方々をゲストに迎えた、漫画好きの漫画好きによる漫画好きのためのお笑いライブ。

取材・構成:奈良崎コロスケ

※この記事は「このマンガがすごい!WEB」より提供を受けています

(C) 東村アキコ/講談社・集英社 

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